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食人一族 ソニー・ビーン

2015.03.01.Sun.23:00
1500年代の話である。

スコットランド、グラスゴーの町に、馬にまたがったまま、ぐったりとしている男がたどり着いた。

男は頭から血を流し、身体のあちこちに切り傷もある。誰かに襲われたのは間違いない。

人々が駆け寄って行くと、男は血だらけの顔を上げてこう叫んだ。
”助けて下さい!妻が…妻が食われてしまう!”

『食われる?』

一体どういうことだ?


男に事情を聞いてみると、この先の海岸で、何十人もの人間に突然襲われたというのだ。

棒で殴られ、馬から引きずり下ろされて、相手は完全に自分を殺すつもりだったという。

この盗賊たちの中には女・子供も混じっていた。

そして彼らの目は一様にギラギラし、明らかに普通の人間とは違っていたという。

まるで食べ物に群がる動物のような目をしていたため、直感的に「食われる」と感じたというのだ。

男は一瞬の隙をついて馬に飛び乗り、なんとか逃げてきたらしい。

だが妻までは助けられなかった。


*****

信じられないような話であるが、男の真剣な様子はとても嘘をついているようには見えない。

そういう盗賊団がいるのなら、町の人間としても放ってはおけないということで、すぐに400人の兵と猟犬を用意して大捜索隊を組み、男の言う海岸まで捜索に行くことになった。

その海岸はひっそりと静まり返ったところで、普段は人を見かけることは滅多にない。

盗賊団は女も子供もいて馬も持っていなかったというから、この付近で生活しているに違いない。

だがそこには、それらしい建物もテントも、そして船も見当たらず、ただ漠然と岩と海が広がっているだけであった。


しばらく捜索を続けていると、ある方向から異様な臭いが漂ってきた。

それは誰にとっても大変な悪臭で、その方向に何らかの異常があることは誰にでも判断出来た。

捜索隊はみな一様に、その臭いの方向を目指し、歩いた。

するとまもなく、大きな洞窟の前にたどり着いたのだった。


*****

中からは異様な体臭と死臭、そして何かが腐ったような臭いが漂ってくる。

この中に踏み込むのは相当の覚悟が必要であったが、何十人もの兵士が意を決して一斉に中に踏み込む。

中にいたのはやはり男の言った盗賊団であった。

盗賊団は初めは逃げる隙をうかがって抵抗していたが、400人もの軍隊を相手に敵うはずもなく、あっさりと捕まった。


次々と洞窟から出て来る盗賊団たちの姿は奇妙なものであった。

髪は伸び放題で、新しいスカートをはいている少年や聖職者の服を着ている男、ボロボロのズボンをはいている女…。

いかにも襲った人間から剥ぎ取った服を身につけているという感じだ。

とすると、あの少年がはいている新しいスカートは、男の妻から剥ぎ取ったものだろうか…?


彼らはみな一様に異常な体臭を発し、着ているものも男女の区別がない。

そして男と女の比率は同じくらいで、老人から赤ん坊までいる。


*****

町の広場まで連行された盗賊団は全部で48人。

あとは男の妻を捜さなければならない。

兵士たちは再び洞窟の中へと入って行った。

しばらくすると洞窟の中から凄まじい悲鳴が聞こえてきた。

ほどなくして兵士たちが次々と走って洞窟から出て来る。

彼らの顔は引きつり、中には激しく吐いている者もいた。


洞窟の奥には男の妻の変わり果てた姿があったのだ。

胴体も手足もバラバラに切り離され、腹は切り裂かれて内臓はきれいに食われていた。これからもっと食べるところだったのだろう。

また、奥の方には、人間の手や足を干し肉にしたものが吊るされており、人体の塩漬けや肉片、腐りかけた頭、干物などが大量に発見された。

この48人の集団は、ここで旅行者などを襲っては洞窟で解体し、食べていたのだ。


さらにもう一つの事実が分かった。

この48人は、一人の老人を長とする一つの家族であった。

長である老人の名前はソニー・ビーンという。


*****

ソニー・ビーンはスコットランドの片田舎で生まれた。

本名はアレクサンダー・ビーンであり、ソニーはアレクサンダーの愛称である。

父は庭造りや廃棄物処理等に従事し、ソニーも若い頃はそれを手伝っていたが怠惰で粗暴な性格のソニーは、退屈な労働を嫌ってそうそうに家を飛び出した。


家を飛び出したソニーは自分とよく似た気性の女性と出会う。

意気投合した二人は互いを生涯の伴侶と定め一緒に暮らし始めた。

しかし暮らし始めたといっても、まともな家に住んでいたわけではなかった。

なんと二人が住処として選んだのは奥行きが1.6kmもある巨大な洞窟だったのである。

その洞窟の入口はギャロウェイ海岸に面しており干潮時には細長い海岸線が現れて前庭になった。

二日に一度の高潮時には洞窟は入口から数百ヤードに渡って水没し一切の出入りが不可能になるため、好んで洞窟に入ろうとする物好きは誰もいなかった。


あちこちに曲がりくねった暗い横道のある洞窟は不気味に静まりかえり、湿った空気がひんやりとした澱みを湛えていた。

しかし二人にとっては居心地のよいねぐらとなったようだ。


こうして所帯をもったものの、ソニーに働く気はなかった。

それは妻も同様である。

そのため2人は旅人を襲い金品を強奪して生活することにした。

そこは人通りの少ない狭い道である。通りかかった不幸な旅人はソニーに襲われ1人の例外もなく殺された。

生かしておいては足がつくため、ソニーは冷酷に旅人にとどめを刺すのを忘れなかった。


そんな暮らしを始めてまもなく、ソニーは再び困窮にあえぐことになる。

食糧不足である。

ソニーは旅人の所持品である宝石や時計、衣類などの貴重品を売ると足がつくと思い、それらは洞窟に放り投げていた。

そのため、獲物から奪う現金だけでやりくりをしていたが、それで妻とソニーを養うには不十分であったのだ。

娯楽品や嗜好品がなくとも別に構わなかったが、食糧だけは確保しなければ生きていくことそのものが危うい。

どうにか食糧だけでも調達できないだろうか。

そんなことを考えていたある日、ソニーはあることにひらめいた。

殺した旅人の死体を食べればいいではないか、と。

*****

ソニーと妻はすぐさまそのアイデアを実行に移した。

いつものように旅人を襲って殺しては自分たちの洞窟まで死体をひきずっていき、魚のように犠牲者の内臓を取り去り、バラバラに切断した四肢を干して塩漬けにした。

そして洞窟の壁に備え付けたフックにかけて保存し、骨は洞窟の別の場所に積んでいった。

彼らは以後、20年間にわたってこの方法を続けることになる。


連続して起こる誘拐とも失踪とも知れない謎の事件を警戒した人々は、気味悪がって田舎道のひとり歩きを避けはじめた。

噂を聞きつけた地方政府が犠牲者と犯人を幾度も捜索したが、ソニーたちの洞窟は誰にも発見されなかった。

二日に一度は入り口が水没する洞窟で生活している夫婦がいて、その夫婦が人を殺して食べている、などと誰が想像出来るだろうか。


食糧問題が解決したソニー夫妻の生活は順調そのもの。

妻は次々とソニーの子供を産み落とした。

ソニーと妻は性欲が旺盛であったらしく、男8人、女6人の子供を設けた。

さらにその子供たちは近親相姦を繰り返し、男18人、女14人を生んだという。

最終的にソニー一家は48人という大家族を構成するにいたった。

ビーン一族の子供たちは何ら教育を受けていなかったため、原始的な話し方しかできなかったという。

子供たちの知識といえば、殺人と食肉の解体、それを保存する加工技術だけだった。

そして子供たちは家族以外の人間が食糧として殺されることに疑問を持ったことはなかった。

道徳や倫理を教育する人間がいない以上、彼らが殺人をごく当たり前の作業として受け入れていくのはやむを得ないことだろう。


 殺人や誘拐を繰り返す中で、彼らの技術は洗練され、素早くスムーズに肉を加工する術を次々に体得していった。

おかげで、40人もの食いぶちがいるにも関わらず、一族が飢えることはなかった。

それどころか塩漬けにして保存した人肉を食べ切れずに腐らせてしまうこともあったため、腐った部分を捨てることもあったという。

いくらなんでもこれほどの大家族が洞窟のまわりをうろうろして誰も気づかぬはずはないが、不幸にも彼らの存在に気づいたものは決して生きて帰ることはなかった。

いつまでたっても無くならぬ失踪と捕まらぬ犯人に業を煮やした役人によって、幾人もの罪もない人々が冤罪によって処刑されていた。

だが、ソニーたち一家はそんなことを知るはずもなく黙々と食糧を獲得するための狩りを続けていた。


*****

 ソニー一家の狩りの方法は徹底していた。

決して獲物を逃さぬように道の両脇に部隊を置き、退路を塞いで殲滅する手法はまるで軍隊を彷彿とさせるほどであった。

人数も増え大胆になったソニー一家は不文律として5人以上の旅人には手を出さなかったが、やがて6人以上の旅人まで標的にするようになっていく。


しかしついに一家の悪運も尽きる時が来た。

ソニーと妻が洞窟で暮らし始めて25年目のある晩、ソニー一家は、近隣の町フェアから馬で帰ろうとしていたある夫婦を襲った。

攻撃部隊が最初に女を捕らえ、次に男を馬から引きずり下ろそうともみ合っている間に、別の部隊が先に捕らえた女を慣れた手つきで裸にする。

そしてその場で女の内臓を引きずり出し、洞窟へ持ち帰る準備を整える。

愛する妻が生きたまま解体されるという残虐な所業を目の当たりにした夫はパニックに襲われ、半狂乱になって無我夢中で暴れた。

男のすさまじい抵抗に、一家は抑えつけることが出来ず転倒。

まさにその時、同じフェアから帰る20人以上の集団が偶然にも通りかかったのである。

思わぬ大人数の集団に出会ったソニー一家は、自分たちが不利なのを悟ると攻撃を中断し、切断した女の死体をその場に残したまま、慌てて洞窟に戻った。

これがソニー一家にとって、最初で最後の、そして最大の失敗であった。


*****

 言い逃れようない長年の罪の証を洞窟に山ほど残していたソニー一家に弁明の機会は残されていなかった。

恐怖と怨差をこめて人々は報復を求めた。

この25年の間に彼らが殺した旅人の数は千人を超えようとしており、残された家族や血族は復讐の憎悪に燃えていたのである。

しかし捕まえられたソニーの子供たちは生まれた時から人肉を食べ、強盗と殺人を生活習慣として暮らしてきたために、彼らがなぜ怒り狂っているのか全く理解できずにいたという。

この人喰い一族を弁護しようなどというものはなく、正当な裁判にかける必要すらないと判断された彼らは、略式の独断的な裁判のすえ死刑を宣告された。

幼児も赤ん坊も死刑の対象からはずされることはなかった。

この呪われた一族の血は一滴も残さずここで根絶やしにしなくてはならなかったのである。


翌日全員の死刑が執行された。

ソニー一家の男たちは両手両足を切断されたうえ、失血死するまで殺さずに放置された。

女たちは男たちの死ぬ様子を見届けさせられたうえ、生きたまま火あぶりにされた。

しかし死の間際になってもソニー一家の人間は死を恐怖することはあっても、罪を犯したことを後悔する様子はなかったという。

彼らは自らが殺した旅人たちと同様、自分たちがなぜ殺されるのか理解せぬままに永遠にこの地上から姿を消した。
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